あげる会?〈第一話〉

千鶴子は久しぶりに岐阜に帰ってきている娘の鮎子に言った。
「ふーん」
鮎子がスマホを眺めながら生返事。
「ほんでも、鵜飼が始まるころにはさすがにコロナも落ち着いとるやろうで今年は麒麟と鵜飼と花火で岐阜大盛りあがりになりそうやね」
「長良川全国花火大会は今年ないよ」
鮎子が素っ気なく言った。
「え?長良川花火ない?なんで?」
「なんか、オリンピックで警備員がいないとかで」
「どっちが?」
「どっちがって?」
「だから、中日か岐阜かやて」
長良川花火大会といっても正式には岐阜新聞が主催する『長良川全国花火大会』と中日新聞が主催する『全国選抜長良川中日花火大会』がある。千鶴子はそのことを聞いているのだ。
「どっちもだって!去年の秋にニュースでやってたやん」
「まあ」
千鶴子はよっぽどショックだったのか黙り込んでしまった。
鮎子はスマホから目を離して千鶴子の様子をみた。
「でもさ、なんか小さい花火大会はやるみたいだよ」
「どう?」
きょとんとした顔で千鶴子が聞く。
「実は私もちょっとその花火大会に関わってるんだ」
「なに何?あんた花火あげるんかね?」
「私が花火をあげるわけじゃ無いけど、『あげる会』って会に入ってて」
「やっぱり、花火あげるんや!」
「だから花火をあげるのは花火師があげるし」
「じゃあ、あんたは何をするの?」
ますます疑問が深まった千鶴子が不思議な風な顔をして言った。
「あげる会はもちろん花火をあげる事が目的なんだけど、今年は市民が主導でやることを目的にしてるんだ。だから、誰でもこの花火に関われるんで本当に色んな人が参加してるよ」
「よく分からんけど、花火は花火屋さんがあげるんでしょ?だったら、そのあげる会って具体的に何やるんやね?それに、あんた、普段大阪にいて何がやれるの?」
千鶴子は遠慮なくわからないことを聞く。
「まあ、そうだよね。よくわかんないと思うから説明するね」
鮎子は裏が白紙の折込チラシを取り出して話し始めた。
「まず、やることはたくさんあって去年までの長良川花火大会は新聞社が主催ですべて新聞社と後援企業がやってくれてたんだよね。例えば、交通整理、警備会社の手配とか河川敷の専有許可申請とか露天商の管理とかトイレ、駐車場の手配とか何十万の人がくるイベントだからその他にも細かい事がうんざりするほどたくさんあるらしいんだ」
「ほん、いろいろ大変やね、全国大会やもんね」
「もちろん、それらを市民主導でいきなりできるわけがないから今年の花火大会は規模をぐっと小さくして名前も『長良川鵜飼屋花火大会』とゆー名前でやるんだ」
「鵜飼屋?」
「うん」
「鵜飼屋ってうかいミュージアムがあるへん(あたり)のこと?都ホテルの前でやるんやないの?」
「そう、それが去年までと大きな違いで今回はグランドホテルの前の河原でやるんだ」
鮎子は簡単な地図をかいて千鶴子に見せた。
「鵜飼開きの時、いつも花火あげる場所ね」
鮎子の話の意味がようやくわかった千鶴子は目を輝かす。
「あー、そこやったらプロムナードから座って見えるでいいやないの。それはよかったわ~今年なくなってまったら来年からもなくなってまうかも知れんってみんな心配しとったで~。よかったわ~。それに、ちょうど今年麒麟の関係で、うかい大橋の下の駐車場が整備されとるで車でもこれるもんね~」
千鶴子もすっかり主催者側の口ぶりだ。
「そう、母さんも友達のおばちゃんだちに宣伝してよ!でも、まだ決まってない事ばかりだからこれからいい意味でどんどん変わっていくと思うけどね」
千鶴子は久しぶりにワクワクした気持ちになって鮎子を眺めた。
つづく